ぬくぬくの書庫

オフレポやユーザー大会についてあれこれ書いていきます。Twitter:@Esounanda

大会運営の軸について

f:id:smash_nknk:20211219235532j:plain
こちらの記事は寝椅子さんの主催する「スマブラ Advent Calendar 2021」に参加させていただいた物です。参加させていただきありがとうございます!

他の方の記事はこちらから↓
https://adventar.org/calendars/6307adventar.org


初めに

あなたがもしスマブラSPの大会運営者ならご自分の大会を発展させる時に何を考えますか?

賞金や賞品を豪華にしますか?
人気のYouTuberを呼びますか?
大会の演出を豪華にしますか?

もし大会の発展を考えるなら継続して新しいことに挑戦し続けることは大事です。
しかし世の中のコンテンツの事例からすると、新しい事に挑戦する過程で変な方向に迷走する事例が無い訳ではないようです。

何かに対して研ぎ澄まされていたはずのコンテンツが大衆に迎合し鋭さを失いどこかで見たような物に変わってしまったり、自身が好きな事をやっていたはずの人間が過度な注目を浴びるようになり承認欲求を満たすこと自体が目的になってしまったり・・・

大会運営においても、何を軸にして成長を目指すのかというのが長期的にその大会の将来を左右しているように思います。

この記事はユーザー大会の運営側が大会を発展させようとする際に取るべきだと自分が考えている姿勢について書いた物です。

3つの評価軸 Having、Doing、Being

コーチングや心理学の分野では自己評価を以下の3つの軸で表現することがあります

Having(結果)
結果で評価する軸
報酬や他者からの評価が重視される
大会運営においては配信の視聴者数などを重視する姿勢

Doing(方法)
やり方にこだわる評価軸
実際の行動に価値を見出す
大会運営では大会の形式、会場、イベント内容を重視する姿勢

Being(あり方)
あり方にこだわる
価値観、存在意義
大会運営ではどのような大会でありたいかということを重視する姿勢
f:id:smash_nknk:20211220002945p:plain

Having、DoingではなくBeing

自分の主張は目先の結果や方法にこだわるのではなく、「どういった大会でありたいのか」というのを大事にしていくべきではないのかということです。

Having(結果)を重視する姿勢は他人からの評価などの外的要因に依存した状態です。
この状態の大会運営はアンケートの結果などにも左右されやすく、大会のコンセプトに反した参加者に人気の内容であっても盲目的に取り入れ、イベントの輪郭が曖昧になりがちです。

SNS等ではフォロワー数や再生数のような数値化された他者からの評価がそれの価値そのものと見られがちですが、本来その物の価値はその人自身が決定して良いはずです。
f:id:smash_nknk:20211220000119j:plain

一方Doing(方法)を重視する姿勢はやっている事にこだわるので本来の目的と手段が入れ替わりやすい状態です。
このような姿勢が長期に渡ると大会運営が過剰な様式美の世界になってしまう場合もあります。心理的柔軟性は失われ、様式から外れたものは出る杭を打たれる空気にも繋がります。

そもそも大会を取り巻く諸々の状況はゆっくりと変わっていくのが自然なのでその時の手法が永遠に最適解とは限らないのです。
f:id:smash_nknk:20211220000126p:plain

本来大会運営の手法は自由なはずです。カードゲームに例えれば単一の技術や運営手法は所詮カードの性能表にすぎず、重要なのは「何故そのカードを切ったのか」といったような判断基準、物の考え方、デッキのコンセプトのはずです。

思うに進むべき方向が分からずに闇雲に目先の利益だけを追い求めて成長を目指すのは目に映る情報だけを元に見知らぬ土地で旅をするようなものです。

目の前で変化する景色に惑わされずに進むべき方向性を保つためには常に一定の方向を指し示すコンパスのような物が集団の中に必要なのではないでしょうか?

誤解を招かないように言いますが単純な欲求で開催される大会に価値が無いと言いたい訳ではありません。
ユーザー大会はコミュニティに属する個人が欲求に基づいて開かれるのが大前提であり、それ自体に価値があります。

この記事で言いたいのは個人の動機とは別に組織の人格が持つBeing=「我々はどういった大会でありたいのか」という価値観を定めることで長期的に一貫性を保ったまま成長していくことができるのではないかということです。

f:id:smash_nknk:20211220001023j:plain
ジョジョの奇妙な冒険5部より

Beingへの抽象化とDoingへの具体化

大会運営に於けるBeingの追求とは大会コンセプトの設定です。

「我々は何を重視するのか」ということを俯瞰した視点で抽象化したい場合、やりたい事ややっている事に対して「なぜそれをするのか?」「それをやることで何が起こるのか?」
という問いで答えを出すことができます。

逆に「どういった大会でありたいのか」が決まっているなら「そのためにどうするべきか?」という問いでDoingの軸を具体化することができます。
f:id:smash_nknk:20211220003019p:plain

事例)篝火

恐縮ですが篝火を例にします。

初回「篝火#1」開催当時はオフ大会の代替としてオンライン又は招待制のイベントが開催されていましたが、我々は自分達がそのような大会を開くことに意義を見出せずにいました。

そこで「何故オフ大会はあれほど盛況だったのか」というのを模索した結果、「オフラインで開かれるオープントーナメント形式の大会が界隈の維持のために必要である」という結論に至りました。

結果大会に対して設定されたのが「コロナ禍でも界隈を維持させる大会でありたい」というコンセプトです。

初回の篝火はコロナ禍におけるオフ大会の開催方法の模索に労力の大半を費やしてしましたが、現在の篝火は初回の界隈の維持を目指したコンセプトから発展し、Beingの軸では「界隈におけるAuthenticity(ふさわしさ)を備え、未踏の規模・エンゲージメントに挑戦する大会」であることを目指しています。

結果、Doingへの具体化では

・誰でも参加可能な公正なオープン大会
・非日常性と身体的な一体感のある大会
・界隈の人間の創作活動の場となる大会
・特定の企業の意向が絡まない非営利の大会

などが主な方針になっています。
f:id:smash_nknk:20211220005559j:plain

スタッフが大会を通じて何かを産み出したいという志向の場合、大会運営の原動力は自分の感性や経験から新しい物を作り出すことへのモチベーションのはずです。

コンセプトを決めると「どういう方向性のことをやっていいのか」が他のスタッフからも分かりやすくなり、ユーザー大会の本来の姿たるボトムアップでスタッフそれぞれがやりたい事をやる雰囲気を維持しやすいように思います。



終わりに

ユーザー大会である以上大会を開催する理由は「楽しいから」や「最強を決めたい」といった理由で十分ですし、開催それ自体に価値があります。しかし大会の発展を目指した場合、個人とは別に組織としての人格を設定し「Being=何のために大会を開くのか」というのを見つめ直した上でそれを基に「Doing=そのために何をするのか」というのを決めることで、自分を見失うことなく大会を発展させていくことができるのではないでしょうか?


あなたの大会はいかがですか?
あなたが大会を開いている理由は何ですか?
その目的を達成するために何をするべきですか?