ぬくぬくの書庫

オフレポやユーザー大会についてあれこれ書いていきます。Twitter:@Esounanda

【スマブラSP】オフ大会という祭祀について

スマブラSP界隈は一般のユーザーにより開催される現実世界での大会、いわゆるオフ大会が活発であり、コロナ禍以前は大変な盛り上がりを見せていました。

公式とは全く関係なく開催されるこれらの大会、700人以上の規模のものは1~2ヶ月毎に定期開催され、平日大会なども含めると1ヶ月に全国合計で150件以上の大会が開かれ、全国のプレイヤー達を熱狂させてきました。

f:id:smash_nknk:20210311194735j:imageDarimoko撮影「ウメブラJM2019」 1024人参加

異様ともいえる盛り上がりを見せていたオフ大会ですが、これらの盛り上がりの要因は一体どこにあるのでしょうか。

スマブラはシリーズを通して人気がある作品ですが、プレイヤー人口が多さがこれらの大会の勃興の直接の原因なのでしょうか?

自分はコミュニティの成長が大きなオフ大会を生むのではなく、オフ大会の存在がスマブラ界隈というコミュニティを成長させ強化してきたのだと考えています。

このページでは宗教社会学の論を基にスマブラSPの競技文化には宗教的な要素があり、オフ大会はその中で祭祀としての役割を果たしている」と仮説立てて、オフ大会とコミュニティの発展について分析します。

これは競技文化の象徴とも言えるオフ大会の盛り上がりが、原始宗教における祭祀の熱狂と共通点を持つと考えたためです。

目次

宗教、祭祀とは何か

フランスの社会学者であったデュルケームは宗教という社会現象の持つ社会的な機能について分析しました。 

宗教には社会を構成する人々に一定の感情を与えたり、道徳的な規範を作り出すことで社会に秩序を与える潜在的な機能があると考えたのです。

その中で人間の持つ宗教の思想は認識する世界を「聖」「俗」という二領域に区別するのが特徴とされます。

「俗」は普段の日常生活であり労働の領域。

「聖」は非日常の領域。

俗の世界は現実の利害関係に支配されていますが、聖の領域は理想と理念の世界であり、禁忌という普段とは全く異なったルールによって俗の領域とは完全に分け隔てられています。

この聖の領域で行われる祭祀はその社会に属する人々の感情を内から活性化させ、普段とは違う熱狂的な行動を引き出し、お互いの結びつきを強化するのです。

デュルケームはこういった人々を社会に統合させ秩序をもたらす力が社会集団を維持するために不可欠であり、宗教とはそのために社会に利用されてきた社会現象であると説きました。

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バイキングの伝統的火祭り「ウップ・ヘリー・アー」

仮説

スマブラSPにおける競技文化は宗教としての形態を持っており、その中でオフ大会は祭祀としての役割を果たしていると考えます。

以下においてデュルケームが提唱した宗教の重要な要素とそれぞれの関係性を、競技文化を構成する諸要素にあてはめることで上の説を裏付けていきます。

教会は宗教における道徳的な社会集団。教会を構成する人々は共通した信仰を持っていることだけでお互いに結びついているとされます。これは競技シーンを構成する社会集団であるスマブラSP界隈」があたると考えます。

  • 信仰=競技に関する観念

信仰とは社会集団を構成する人々が共通して持つ観念。これは界隈を構成する諸個人それぞれの持っている「競技に対する価値観」があたります。

スマブラ界隈を構成する人々、大会に集まる人々はスタッフも含めて全員がスマブラSPのプレイヤーです。競技的に遊び、競技性を信じる観念がコミュニティを構成する人々を繋いでいると考えます。

  • 祭祀=オフ大会

周期的に訪れる非日常の場。社会に属する同質の人間達が集まり行われ、人々を社会集団に結びつける役割があります。

これは「オフ大会」があたると考えます。プレイヤーは皆普段はそれぞれに日常生活があり、大会は非日常的に開催されます。

  • 禁忌=競技と大会のルール

祭祀における日常生活とは異なったルールであり、俗と聖の領域を二分するものです。

これは「競技とオフ大会のルール」があたると考えます。大会においては日常社会の人間関係や権威、財力や学力は意味をなさず、純粋にスマブラの試合に勝利した者だけが次の試合に駒を進めます。

  • 聖物=トッププレイヤー

聖物とは社会の象徴であり、祭祀において人々の集団崇拝の対象となるものです。

これは「トッププレイヤー達」があたると考えます。オフ大会においてはトッププレイヤー達の試合が観客達の耳目を集め、熱狂が巻き起こります。

また、聖物は人に依存した存在だとされます。スマブラSPの競技性を信じる人間が存在しなければトッププレイヤーに価値が生まれないことからも聖物にはトッププレイヤーがあたると考えます。

 

仮説のまとめ

上記の主要な要素とその関係性が符合することから、スマブラSPにおける競技文化は宗教としての要素を持っており、その中でオフ大会は祭祀としての役割を果たしていると考えます。 

スマブラSP界隈はオフ大会という祭祀の持つ「人々を結び付け社会を統合する機能」により強化され成長した社会集団なのです。

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オフ大会「篝火」祭祀、祭祀としてのオフ大会がコンセプト

オフ大会の集合的沸騰現象

具体的にオフ大会はどのようにスマブラSP界隈を強化しているのでしょうか。

デュルケームは「集合的沸騰」という現象が祭祀の場で巻き起こるとしました。

祭祀の場では集まった同質な人々が集合的に同じ行動様式をとることで、それぞれの感情が空間を経て呼応し「集合的沸騰」と呼ばれる激しい興奮状態を引き起こすのです。

社会の象徴(聖物)に対する共同崇拝が生む「沸騰」という限界状態において個人と社会は明確な境界を失い、お互いの結びつきは強化されます。

オフ大会が祭祀であるならば、その熱狂の本質はこの集合的沸騰現象によるものと考えます。

大会に参加するまで今まで参加者それぞれが別々に持っていた観念、価値観は現実の世界に集まることで誰でも実際に目に触れ体験しうる堅固な物になります。

競技的な価値を信仰する人達が集まった祭祀の中でトッププレイヤー達はその信仰の象徴(聖物)となり、壇上の試合は観衆の意識を一点に集中させるのです。

参加者、視聴者達の間で感情のエネルギーは呼応し集合的沸騰状態を引き起こします。沸騰という限界状態の中で個人と社会の境界は失われ、大会参加者、配信の視聴者達は一体感の中で感情を内から活性化され、社会への帰属は強化されるのです。

オフ大会はスマブラSPの競技の場であると共に、コミュニティの保持、発展の観点からは上記の「集合的沸騰状態」を引き起こすことにより人々に精神的な活力を与え、界隈の裾野を広げ、お互いの結びつきを強化する役割を持っていると考えられるのです。

※参加者が界隈への結びつきが強い状態というのが大会を開く上でどんな利点があるかというのはアユハ氏の共同体感覚とゲームシーンの記事より

 

集合的沸騰の諸要素

ではオフ大会において上記の「集合的沸騰状態」を引き起こる主要な要素とはいったい何でしょうか。 

集合的沸騰が起こるとされる条件から以下の要素が重要だと捉え、それぞれをオフ大会の諸要素にあてはめていきます。

  • 集合

同じ空間に集まることにより感情のエネルギーは呼応し増大するとされます。

オフ大会においては、大会の模様が配信されることが通例となっており、これらのコンテンツによる集合の追体験がネット上の祭りという集合的沸騰現象に繋がってると考えます。

  • 共通の観念

祭りの中で集合的沸騰現象が起こるためには、単に人が集合しているだけでは不十分であり、集まった人間の間に凝縮されるべき観念が存在しなければならないとされます。宗教がなければ祭祀は存在しないことからも集団には共通して持つ観念、信仰が必要なのです。

上記の論証では信仰には「競技に対する価値観」を当てはめました。

大会のルールは参加者、視聴者の競技に対する観念を形にしたものであり、集まった人間達はそのルールで勝つこと、試合を観戦することに価値があるという同質の観念を共有しているのです。

  • 非日常性

聖の領域は俗の領域(日常生活)とは全く隔絶された領域であるとされます。

大会の規模感や演出など日常生活との隔たりを際立たせる要素は祭祀の非日常性を強化していると考えます。

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非日常の中の非日常、壇上の舞台
  • 共通の行動様式

祭祀の場においては「共通の行動様式」が集合的沸騰状態を引き起こす重要な要素であるとされます。

人間は生まれつき、他の人々と体の動きをシンクロさせようとする傾向を持っています。他人の動きを観察するとき、私たちの脳は活発化し、集団の中に電気的な興奮状態が発生するのです。

これらの人間の持つ根本的な集団性が集合的沸騰状態を巻き起こす大きな要因の一つだと考えられているのです。

大会における諸人の「共通の行動様式」はゲームのプレイ、観戦、配信コンテンツの同時視聴、SNSでの呟きなどがあたると考えます。

特にオフ大会においては壇上の試合が参加者の目線を集め参加者、視聴者の意志を収束させる祭器として機能し、又、それらの動画配信を行いネット上で追体験させることで集合的沸騰現象の範囲をSNS上に広がり、ネット上の「祭り」に繋がるのだと考えられます。

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TOP4からの観戦文化

まとめ

以上の各要素の当てはめから見えてくるのは、オフ大会はその規模を拡大、大型化することで多くの核心的な要素が強化され、祭祀としての働きを増大させるということです。

大型化した大会はより大きな「集合的沸騰」をもたらすことでコミュニティの人口を増やし、お互いの結びつきを強化するのです。

特にスマブラ界隈は長い間公式の大会が開催されていなかった中で発展してきた歴史的背景があるため、コンテンツを自分で作る傾向の強い民族性を持っているといえます。つまり、拡大したコミュニティから新たなコンテンツが創出される好循環も期待できるのです。

 

スマブラSP界隈」はソフトの売上やシリーズの人気さからその発展を語られることもあります。

しかし、オフ大会という「祭祀」がコミュニティを成長させたと捉えるなら、長年の有志の努力によってオフ大会が継続開催されてきたことと、その規模が大型化されてきたことがスマブラSP界隈とその競技シーンが発展した大きな要因であると考えることができるのです。